なんでも写真館

皆さんはリントンズ(RINGTONS)というブランドをご存知でしょうか？

 

昨日の投稿でもご紹介しましたが、大晦日のタリーズ納めのお遍路の際、画像だけ投稿させて頂いたり、1/12にも立寄った阪神百貨店1Fにある紅茶のブランドです。

2011年の日本上陸までは極々一部の方しかご存知ではなかった幻のブランド。

現在でも英国通や余程の紅茶好き、特にミルクティー好きでないとまずご存知ないのでは。

試しに「紅茶×英国ブランド」で検索なさって頂いてもまずヒットしません。

 

 

紅茶文化の本場である英国で1907年に創業し以来現在まで英国内で愛され続ける紅茶商のブランドです。

勿論ロイヤルワラント(英国王室御用達)であり英国軍御用達でもあります。

 

昨年12月地元のティールームをご紹介させて頂きましたが、かくいう私も特別紅茶に関して詳しい訳ではなくウチの奥さまが紅茶好きでそれなりに様々なブランドの紅茶を楽しんでおり、このブランドを紹介された次第。

 

おそらくご存知ない方がほとんどかと思われるのですが、現在英国においてはリーフ(茶葉)ではなくティーバッグで紅茶を淹れる方が98%であるということ、そして英国紅茶の飲み方のスタンダードがミルクティーという事実を。

 

リントンズは英国の一般家庭で愛されている、普段使いの紅茶を扱っています。

なので茶葉ではなく全てティーバッグなのですが、普通1バッグ2グラムのところが多い中リントンズは1バッグ3グラム。

1バッグ8~10グラムのドリップバッグコーヒーが主流の中、タリーズのジップスシングルサーブが1バッグ15グラムなのと似ています。

普段使い用の紅茶なのでお値段も(スーパーなどで一般的に見かける商品よりはお高いですが)比較的リーズナブルな設定となっています。

しかも種類はゴールド、ブレックファスト、トラディショナルの3種とアールグレイ、ルイボスティー、インフュージョン(ハーブティー)いうシンプルさ。

 

 

昨年12/26『リントンズから皆さまに大切なご報告があります』と題した声明が発表されました。

結論からいうと2024年をもって英国展や英国フェア、スコーンパーティー等の全ての百貨店の催事から卒業(撤退)するという極めて重大な内容。

 

曰く、

『「こんなに美味しい紅茶に出会ったのは初めて」と喜んでいただいてもティーバッグと知っただけで購入には至らず』

『英国で愛されるミルクティーをそのまま伝えようと試飲をミルクティーにしてみても「紅茶はストレートで飲むもの。味がわからなくなる。」と言われることも』

『年を重ねるごとに催事に訪れて下さるお客様も増えて…「1年分の紅茶を買う」「日常の紅茶 を補充する」というお客様も増えていく中で、リントンズのショップで長時間の行列や整理券配布により多くの時間待機する。…どんなに準備をしても完売、在庫切れとなることもあり、せっかく来て頂いたのに…と悩むこともありました。』

『紅茶を一つ販売するのに“文化の壁”というのを強く感じたり…』

『2年ほど前から悩みに悩み続けたことでもあります。』

等々。

 

ありのままの英国文化を伝えようと真摯(しんし)な姿勢でのぞんでいるにもかかわらず、なかなか上手く伝わらないという歯がゆい現実に苦悩し忸怩(じくじ)たる思いが文面から滲み出ています。

『リントンズの商品は世界に向けた商品ではなく、英国人、英国の紅茶愛好家のために作られている商品です。』

『ただイギリスでも生産が限られている場合は日本に輸入できる数も限られる…(中略)英国展や英国フェアで完売となってしまうだけでなく全国に向けた通販での販売が品薄になることもありました。』

 

『催事の卒業を決めた理由は、リントンズは現地の英国人の紅茶愛好家にリアルに愛され続けている紅茶であることを知ってもらう、感じてもらうことに、より集中したいと思ったからです。』

『わたしたちも毎日幸せになれると感じている英国ティータイムや暮しのカルチャーを発信していきながら、リントンズが運営する全国に向けたオンラインショップや大阪にある阪神梅田本店の店舗をさらに充実させて紅茶やビスケットはもちろん新商品やグッズを揃えて多くのお客様に楽しんでいただきたいと考えています。』

 

今回の声明は「拡販の為に我々が満足する商品やサービスのクオリティを捨ててまで敢えてメジャーになる必要など全くない。

日本に於いては知る人ぞ知るマイナーブランドとして細く長く存続出来ればよい。」

と宣言したようなもの。

生半可な覚悟で口にできることではありません。

念の為に申し上げておきますが、私は拡大志向による売上増や各種コラボ、店舗網の充実等を否定するつもりはさらさらありません。

公共機関やNPOではなく私企業であるが故に利潤の追求は当然至極。

 

タリーズを始め、マーメイドの“S”、“K”“D”“U”等のカフェチェーンも店舗網の拡大とブランドのイメージアップと浸透に力を入れ売上及び利益増を図っています。

 

しかしながら、連綿と受け継がれてきた伝統と品質への強いこだわり。

そして何よりも会社を支え続けてくれた自国の顧客からの信頼に応えるべく、敢えて自社製品のアピールの場から潔く撤退し製品の安定供給に舵を切るという決断を下せる企業文化。

私はここに企業のあるべき姿勢のひとつを垣間見た気がしました。

 

思えばバブルの崩壊を上手く乗り切った投資家や企業は出口戦略が明確であり、常にアンテナを張り巡らし微かな兆候も見逃さず潮どきを見極めさっさと撤退したところが多かったような気がします。

せっかくここまで投資したのだから損害など出せないと損切りを見送り、撤退のタイミングを測りかね手をこまねいていた投資家や企業はかえって深手を負い破綻したところも多かったはず。

 

大企業ではなく家族経営の会社ゆえ、限られた貴重な経営資源(資金、人材、生産設備等)を最大限に活かし持続可能な経営となるよう時期を見極め合理的に事業内容を取捨選択せざるを得ません。

 

その結果が今回の声明。

顧客第一主義とはこういうものだと教科書に載せてもいいようなお手本。

 

 

ちなみに阪神百貨店のティースタンド併設のこの店舗は、リントンズの製品を直接手にとって購入出来る英国外で世界唯一の実店舗。

本国イギリスですら常設の店舗はありません。

「常設の店舗がないのにどうやって商売してるの？」という疑問は当然です。

その答えは「宅配」。

創業時からティーマンと呼ばれる宅配人が一般家庭は勿論、ホテルやティールーム、カフェなどに直接届けています。

創業時から約半世紀はブランドロゴと共に描かれている馬車、そしてバン(自動車)となり現在では電気自動車へと移行中です。

 

紅茶宅配という創業時からの伝統があるので英国内ではわざわざ店舗自体を設ける必要がないのだとか。

英国内の家庭やカフェ、ティールームにはあるのにごく一部の販売店にしか卸しておらず、旅行者などがなかなか見つけられないので英国外では決してメジャーではありませんでした。

 

 

代々リントニアン(リントンズ愛好家)であったイギリス人の義兄からもらった紅茶に魅了された現リントンズジャパンの代表岡田氏が惚れ込み当時の経営陣に直談判。

それまで海外では一切販売することがありませんでしたが、その熱き情熱を認められ2011年に日本に上陸。

以来10年余りの地道な活動を評価され2021年にこの店舗をオープンするまでは実店舗を持たなかったという堅実経営の鑑(かがみ)。

 

 

今回の催事からの撤退で大切なアピールの場を失う事になりますが、公式オンラインショップとこの世界唯一の店舗の品揃えを充実させると共にリアルな英国の文化の発信を地道に続けていくとの事。

 

 

タリーズや＆TEAで提供される紅茶が茶葉ではなくティーバッグなのも決して手を抜いている訳ではなく、本場英国と同様に誰もが間違いなく気軽に美味しい紅茶を楽しめるようにとの配慮からだと思います。

 

 

これからも＆TEAでの様々な紅茶の楽しみを体験するのは勿論、このブランドの行方にも注目していきたいと思います。